銀行のプロディーラーの1日

皆さんは、なかなかプロがどのように為替市場にかかわっているか、知る機会が少ないと思います。そこで、私の実体験にもとづく、プロディーラーのある1日をご紹介しましょう。

私が1998年に当時勤めていた銀行のニューヨーク支店勤務から帰国し、2000年ごろ本店資金為替部の為替グループマネージャーだったときの典型的な1日です。

当時、私は30名程度の為替グループ全体のヘッドであり、カスタマーグループ(顧客セールス)に所属しながら、プロップディーラーでもありました。プロップディーラーとは、銀行から為替取引ポジション枠を与えられ、月単位で決められたストップロス金額でリスク管理されながら、半年ごとの収益目標を自己裁量デーリングで達成させるディーラーのことです。自分の収益目標を達成するだけでなく、為替グループ全体の収益目標を達成させることが、私の課題でした。

5:30 モーニングコール

朝は、ポケットロイター*1(現在のスマートフォンで各FX会社が提供するアプリに該当)と呼ばれる為替情報携帯端末で為替レートをチェックし、銀行のニューヨーク支店にいる為替担当者に電話することから始まります。

夜中に起きた出来事、たとえば自分のポジションの状況や利食いの注文が成立したか、または損切りになったかなどを確認します。また、現在の各通貨ペアの水準、ニューヨーク市場の相場や顧客の動向、相場を大きく動かした要因などの情報を集めます。相場の状況によっては、ニューヨーク在住のほかの銀行の為替仲間2~3名に電話し、追加情報をとることもあります。

その後ブルームバーグテレビ*2(現在は日経CNBC*3)やモーニングサテライト(テレビ東京)をつけて、夜中のマーケット情報を確認しながら朝食をとります。朝食中も、ニューヨーク市場で相場が荒れているときは、電話が入ることもあります。

*1ポケットロイター:トムソン・ロイター社が開発した為替レートやニュースがリアル
タイムで確認できる為替情報の携帯端末機。
*2ブルームバーグテレビジョン(現在は日経CNBC)日本語放送は2009年に放送終了。
*3「日経CNBC」:CS放送のスカパーサービスやケーブルテレビで放送する経済ニュース専門チャンネル

7:30 出社・データチェック

電車の中で日経新聞朝刊を読み、席に着いたらディーリング・スクリーンに表示される「ロイター」、「テレレート」や「ブルームバーグ」*1、メールなどで前夜からの為替・金融関係の記事を、全部流し読みで目を通します。業界の著名人の為替コメントや予測などは、できるだけ細かく読むようにします。

*1 「ロイター」「テレレート」「ブルームバーグ」:いずれもグローバル市場の金融市場動向や経済ニュース、チャートなどを配信するニュースメディア。

7:45 他行ディーラー・顧客との情報交換

ほかの3~5大手銀行ディーラーと意見交換をします。今井雅人さん(マット今井)も当時その一人でした。気心知れた間柄同士の話であり、お互いの相場観だけでなく、裏話や顧客動向などを話します。取り扱っている顧客層も違うので、非常に重要な情報交換となります。

同じ時間帯には、商社や事業法人、機関投資家など顧客からの電話も入り始めます。顧客には海外の動きや私の相場見通しを話します。顧客側も、その業界にいないと入手できないような内容や、目先の取引方針を持っています。顧客との情報交換は、目先の相場を占ううえで、大変貴重な情報収集でした。

8:30 為替グループ全体ミーティング

為替部門全員でミーティングを行います。各為替ディーラー(スポットディーラー、スワップディーラー、カスタマーディーラー、オプションディーラー)のチームリーダーがそれぞれの情報、見通し、考え方などを発表して意見交換をし、情報面での擦り合わせをします。各ディーラーはみんな、私とは違う情報源を持っていますので、非常に有意義な情報交換となります。

このミーティングでは、あくまでも各ディーラーが情報を正確に、もれなく把握することに主眼を置いていました。全体で情報をシェアすることなく、それぞれが身勝手にポジションをとってしまうのを避けるのが目的です。情報を共有しても、各ディーラーのポジション運営の仕方や見通しに違いが生じますので、それがリスク分散につながります。

各チームの通貨別ポジション量や為替グループ全体のポジション量、そのポジションの偏りをつねに把握しながら、為替グループ全体の収益達成度を考えて自分のポジションを調整し、リスク管理をしていました。

9:00 東京市場オープン

東京市場オープンと言えば、それまでの時間は取引がないとか、取引できないというような印象を与えがちですが、そんなことはありません。実際には、他行との取引や顧客との取引は、8時前から行われています。以前は、東京のインターバンク取引が9時からスタートしたこともあって、その名残でオープン時間と言っています。

いまではインターバンク取引も専用電子取引が主流となり、実際には24時間いつでも取引ができる体制となっていますが、東京市場のオープンレートは9時の水準が使用されています。また、9時を過ぎるといっせいに顧客・銀行間取引が活況を帯びてくるのは事実で、取引の流動性も高くなります。

ランチタイムまで、東京やニューヨークの銀行のディーラーや顧客から電話がひっきりなしにかかってきて、活発な取引が行われます。そのたびに、顧客動向や見通しの情報交換もします。また、東京の報道機関からも市場や顧客の動向について、質問を受けることもあります。

9:55 東京仲値発表

以前は、現在の三菱東京UFJ銀行の仲値が東京仲値として一律採用されていましたが、いまでは各行がそれぞれ独自の仲値を決定し、すぐ公表されます。ただ、9時55分時点の相場水準から計算されますので、各行の仲値が大きく異なることはありません。

通常、大口の為替は、銀行と顧客が市場の実勢レートを考慮して、そのたびに決められます。しかし100万ドル未満の小口取引については、日中によほどの大きな変動がない限り、この9時55分に決められた仲値を基準にして、対顧客とのその日の取引レートを決定します。

また。仲値は個人向けの外貨定期預金やその日の外貨両替の基準レートにもなります。東京仲値は東京市場独自のもので、ほかの市場にはない制度です。

11:00 ランチタイム

以前は、東京市場は正午から午後1時半までインターバンク取引は昼休みでしたので、この時間帯は動きが鈍くなっていました。東京の債券・株式市場の昼休みと重なっていたということも影響しているのかもしれません。

もちろん、シドニー、シンガポール、香港などの海外市場はそのような慣習はありませんので、顧客取引や東京を含めたインターバンク取引をすることはできます。

しかし、以前から、ほかのアジア市場でも東京に合わせて昼休みをとるディーラーが多く、通常はこの時間帯はそんなに大きな動きはありませんでした。

いまでは電子取引が主体となったことから、いつでも取引ができる環境にありますので、特に昼休みという相場が休場となる時間は定められていません。とはいえ、日本の債券・株式市場の後場が始まる12時30分からは、為替市場も動きが活発になります。

つまり、日本の債券・株式市場が昼休みの11時~12時30分の間は、為替市場も動きが鈍くなる傾向があるのです。そこで日本の為替ディーラーも、通常11時からランチタイムに入ります。

私は11時から簡単に昼食を済ませ、この昼休みを利用して銀行のほかの部署の責任者との打ち合わせをしたり、デイリーで私のもとに提出される部内の数多くの報告書・起案書を決済したりしていました。週に1回くらいは他行ディーラー仲間と昼食をとり、情報や意見の交換をしていました。

また、海外市場から東京に訪問してきた外資系ディーラーとのミーティングも、この時間に行うケースが多くなります。ただ、銀行内の打ち合わせや昼食で外出するときも、基本的には12時半までに戻るようにしていました。

13:30 後場

以前の東京市場の昼休みの名残から、後場と呼ばれる午後の取引のスタート時間とされていましたが、すでに市場は12時30分以降活況を帯びてきて、取引に厚みが出ています。

前場(午前中の取引)ほどの値動き、取引はありませんが、債券・株式市場の後場の値動き次第では、為替市場も大きく動くこともあります。特に東京証券取引所の後場は12時30分から始まり、株式市場での不穏な噂や値動きが、連鎖反応的に為替市場に影響することが多々あります。

その後、銀行のロンドン支店から電話が入ってきて、東京市場の値動きの情報提供をしたり、ロンドン在住の他行ディーラーとの情報交換が始まります。ロンドンとは時差が8時間あり、ロンドンの朝6~7時が東京時間の午後2~3時、冬時間では午後3~4時に該当します。

ロンドン市場の顧客動向によっては、夕刻から夜にかけての相場見通しを修正したりするケースもたびたびありました。

15:30 東京市場クローズ

これも以前、東京市場のインターバンク取引終了時間だった名残で使われている言い回しです。東京オープン同様、いまでも東京市場のクローズレートは、15時30分の水準が使用されています。

東京市場のオープン前と同様に、このあとも顧客・銀行間取引は継続し、逆にロンドンを中心とした欧州市場が活発に動き始めることから、東京市場の後場よりも値動きは激しくなります。

その後本格的な欧州時間に入りますと、日本市場では、年金など機関投資家の動きが活発になります。彼らが外国証券に投資する場合の欧州債券・株式に投資できる時間帯に入ってくるからです。

日本の機関投資家は個々の債券や株式を買ったり売ったりするのと同時に、そのための通貨を為替市場で調達します。取引通貨は、ユーロ/円、ポンド/円、スイスフラン/円など、いわゆるクロス円での売買です。

この時間帯は為替市場にとって、世界最大の欧州市場参加者が取引する時間帯となりますので、取引の流動性は、アジア時間帯よりも大きく増加します。

日本の機関投資家は、ニューヨーク時間の9時30分(冬時間では日本の23時30分/夏時間では日本の22時30分)に入りますと、アメリカの証券市場にて米国債、米国株式の売買をします。同時に通貨を調達するため、ドル/円やカナダ/円の売買を行います。

18:30 ディナータイム

週に1回程度、18時30分ごろから顧客と会食し、情報交換や取引深耕に努めます。顧客と会食しない日は、他行のディーラー仲間と丸の内界隈の行きつけの店に集合し、その日の相場反省会という名の息抜きをします。

大手邦銀や外資系銀行のディーリングルームは、基本的に丸の内界隈に集中しており、三々五々の集散が非常に楽にできます。

なぜこの時間に夕食をとるかと言いますと、日本時間の19~20時前後から1~2時間は、ロンドン市場も昼どきになりますので、相場が小休止になることが多いからです。もちろん市場はオープンしていますので、取引はできます。

重要なアメリカの経済指標発表(雇用統計、貿易収支、GDPなど)があるときは、ニューヨーク時間の午前8時30分にあたる22時30分前、夏時間ですと21時30分前にオフィスに戻り、発表後の取引に参加します。

夕刻オフィスを出る前には、必ず、夜番のディーラーに自己ポジションの利食いと損切り注文、必要に応じてコール・レベル*1を残していきます。相場が大きく動いたときは外出先からも携帯から銀行のロンドン支店に電話して、相場状況を確認するとともにオーダーの追加や変更なども頻繁にすることがありました。

当時、各ディーラーはポケットロイターを会社から渡されていたため、外出先でも為替情報、為替レートのチェックは容易にできました。いまでは、スマートフォンでも簡単にチェックできます。

何より現在の皆さんであれば、携帯端末から外出先でも取引FX会社にアクセスできますから、プロ同様に容易に為替情報収集及びFX取引をすることができるでしょう。


*1コール・レベル:この為替レートになったら電話で連絡が欲しい、という値の水準

22:00~0:00 帰宅


通常は、22時~深夜0時ごろ帰宅します。まず真っ先にブルームバーグテレビ(現在は日経CNBC)をつけ、相場動向をチェックします。その後、必要に応じてニューヨーク支店に電話を入れ、自己ポジションや資金為替部の各ディーラーの利食い注文、損切り注文などの状況を確認します。

またロンドン市場からニューヨーク市場にかけての相場動向を聞き、意見交換をします。そしてグループ全体のポジション・収益状況を踏まえたうえで、自己取引の注文やコール・オーダーの最終的な取引注文を残します。

日本時間の深夜1~2時ごろがロンドンの17時、ニューヨークなら昼どきで前場終了時間となり、市場はふたたび落ち着きを取り戻します。そこで東京のディーラーも、この時間帯が就寝時間となるケースが多くなります。

長いようで、あっという間に終わる1日

以上が私の典型的な1日です。他行のディーラーや顧客の為替担当者、海外のディーラーも、立場・場所こそ違うけれども、基本的な行動はみんな同じです。長いようで、あっという間に1日が終わってしまうのが実情です。

就寝中でも、相場が大きく動けば、翌朝までの問に起こされることもあります。ディーラーの仕事は本当に「24時間闘えますか」と言っても過言ではありません。為替取引が好きな人でないと務まらないとつくづく思いました。

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鶴 泰治

株式会社FXトレード・フィナンシャル代表取締役社長

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